跡部景吾様お誕生日!!


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いつも以上に跡部が乙部です

 

…というわけで。2009年跡部様お誕生日おめでとうってことで。

よろしければ、どうぞっ!

 

 

 

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15歳。

 

 

 

 

 

 

俺はアイツに、恋をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

I  Have Loved  You.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『していた』、と過去形なのは、なにせ不毛なものだと気付いたからだ。

 

男、世間体、そして幼馴染。

更に相手は自分に尊敬しているときた。

いや尊敬しているのかどうかは定かではない、勝手に自分が思っているだけだ。

 

けれどあれだけ傍に居て、相手が持つ感情を見誤るはずはなかった。

特にこの自分が、である。

 

それに、今年はなにかと擦れ違いも多い年で、高校に上がった自分と、大会が控えていたために練習やら何やらで大忙しだった樺地とは、中学の時あれだけ一緒に居たのが嘘のように中々会えないことが多かった。

これまでも自分が進級するときはそんな感じだったが、こんな感情を抱き始めてからは、らしくもなくアンニュイな気分に陥ることが度々あったものだ。

 

 

だから、16になれば、この想いは捨て去ろうと決めていた。

 

 

部屋にあるアンティークの時計が2355を指しているのを見て、跡部はテニス部連絡専用の携帯を手にテラスへ出た。いつもの喧しいメンバーから、『0時ジャストにメール送るからなー!』と言われたためである。

10月の冷たい外気が跡部を襲うも、跡部は軽く羽織ったローブの上から自分の腕をこするだけで、さして気にも留めない様子だった。満天、とはいえないがチラチラと輝く星を見る気にもなれず、何とはなしに携帯のディスプレイを見る。

 

あと5分で、覚悟を決めなければならないと思った。

 

 

思えば、出会ったころはこんな感情を抱いてはいなかった。

当たり前といえば当たり前なのだが、今思うと不思議で仕方がない。

もしあのころに戻れるなら、戻ってしまいたかった。

そしてこんなに自分の心を乱す相手から、逃げてしまえばよかった。

そうすれば、今こんな想いをせずに済んだだろうに。

 

 

 

ああ、でも。

 

それでも俺は、またお前に出会ってしまうのだろうか。

 

 

 

何が好きか、と問われてもおそらく答えることはできない。何もかもが好きだった。

否好きでは足りなかった。どれだけ言葉にしても足りない想いを、本当に言うことはできない。

 

 

 

―――きっとこんな相手は二度と現れないんだろう。

 

跡部は確信して、苦笑した。

 

これほどまでに自分の心を乱し、騒がせる相手など、生涯にただの一人もいないのだ。

アイツ以外は。

 

 

寒さのせいでなく震えそうになる指を抑え、跡部は唇の隙間から細く息を吐き出した。

 

 

いつか、いつの日か。

アイツがどこかの女と付き合う時、結婚するとき。

その時に自分は『良い友人』でいられるのだろうか。

 

それを考えると今でも背筋が凍りそうな恐怖が襲いかかる。

おそらく今すぐにというのは無理だ。

 

それでも、いつか来る日の覚悟を決めなければならないのだろう。

 

明日―――いや、今日がその一歩になればいい。

 

嘆願するように、ぐ、と指に力をこめて、跡部は空を仰いだ。

 

 

 

 

 

104日、000になった瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+  +  +

 

 

 

 

 

 

 

 

と、知らず息を詰めていた跡部は、手の中にある携帯のバイブで現実に引き戻される。

 

もう16になったのだと思うと同時に、予想通りの人物からメールが来たことに思わず笑みをこぼした。

 

 

 

000

 

From:向日

Happy Birthday!! クソクソ跡部! プレゼントは後でなー』

 

派手な装飾を施されたされたそのメールを見て、跡部は眉をしかめた。

 

『後で』?学校でなくて、『後』ということは、まさか来るのだろうか。

 

深夜12時にしてはあり得ない想像をしつつ、あながち馬鹿に出来ない話だ。

なにせ向日は、遅くて300に忍足の家に押しかけた伝説を持つ男である。

 

 

と、一分後にまた携帯が震えた。

 

 

001

From:忍足

『跡部、お誕生日おめっとさん。 あー、言うとくけど怒らんといて―な』

 

……『怒らんといてーな』?まさか何かしたのか?それが今日学校で判明するのか?

俺様はそれをこの気分で知らされなきゃいけねえ訳か?

 

…忍足、頼む。殴らせろ。

 

 

 

 

 

そして、メールはまだ続いた。

 

 

 

002

From:芥川

『はっぴーばーすでー跡部ー 俺マシュマロが食べたいしー』

 

 

003

From:宍戸

『あー、誕生日おめでとう。今年もよろしく。……言っとくけど俺、かんけーねーからな』

 

 

 

004

From:滝

『お誕生日おめでとう、跡部。素敵な日になるといいね。そういえば、跡部の家にはベランダとかあるのかな? P.S. 箸取りの儀は内に任せてね』

 

 

 

005

From:日吉

『お誕生日おめでとうございます。 外、星がきれいですよ』

 

 

 

006

From:鳳

『跡部さん、誕生日、おめでとうございます!!!今日は月が冴えてますよ。夜分にメール、すみませんでした!!』

 

 

 

 

 

 

ジローに関しては、誕生日を祝うはずの相手に食べ物をたかるなと言いたいところであったが、どうやらこの時間まで頑張って起きていたらしい。

跡部は苦笑しつつ、ただ一言「寝ろ」とだけ返信した。

 

それから宍戸のメールも不審極まりなかったが、滝の『箸取りの儀』というものはいったい何なのだろうか。

 

 

 

 

 

―――そもそも、妙に謎の多いメールである。

 

 

全員が、必ず一分ごとに送ってきている。

そして、なぜか後半は外に関する内容なのだ。

 

しかも、的を得ていないメールばかりで、おまけに何かに急いでいるかのように全員一行ずつである。

 

 

 

まさか本当に、来るんじゃないだろうな。

 

すうっと血の気が引いたような気がして、跡部はおそるおそるといった様子で遠くに望む自宅の大門の方へと眼を遣った。

 

だが、門の方でなにか騒がしい動きはない。

どうやら自分の心配は杞憂に終わったようだと跡部は一息ついて、部屋へと戻るため振り返ろうとした。

 

 

 

時だった。

 

 

 

「跡部、さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

背後から、予想もしない人物の声が聞こえてきたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか、という思いで振り返ると、そこにはやはり予想もしなかった通り、樺地がいた。

 

普段通り入ってきたのだろうか、部屋の中で立っているソイツはいつものように猫背のまま、色どりの鮮やかな花束を持っていた。

 

 

 

 

大輪で七分咲きの、紅薔薇と白薔薇の花束。

 

 

それを見た瞬間、失神するか、と跡部は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――まさか、嘘だろう。

コイツがいることも、まさかそんな花束を持って立っていることも。

 

 

 

何もかもが非現実的で、何もかもが夢のようだった。

 

 

 

 

 

 

「…いきなりすみません」

 

いつになく真摯な声が聞こえて、跡部はテラスにかけた手に力を込めながら樺地から眼を反らせないでいた。

 

「俺は、いつでも、勇気がなくて」

 

一歩一歩を、ゆっくりと、そして確実に詰めてくる。

 

「貴方の傍に居るにも何かと理由が必要で、」

 

ついにテラスの入口までその影が迫った時、跡部の手はすでにテラスから外れていた。

 

 

 

「臆病でした。」

 

 

 

 

 

 

今、樺地は跡部の目の前に居る。

 

 

 

 

「…そんな俺でも、いいですか」

 

 

 

 

 

 

 

樺地の輪郭がゆっくりと歪んで、跡部はその理由に気がつくまでに相当な時間を要した。

 

 

「どう、して」

 

 

頭の中で何回も回る言葉を、やっとのことで跡部は口にした。

 

 

「…跡部さん、」

けれど樺地の言葉の続きを待てず、跡部は続けざまに言う。

「…大輪で七分咲き、の、紅薔薇と白薔薇、は」

「…」

「欧州で特別な意味を、持つんだ」

「…ウス」

「お前にその意味が分からない、はず、ねえな?」

 

 

 

満開でなく、七分咲きで『永遠』を。

紅薔薇は『恥ずかしさ、けれどいとしさを止められぬ気持ち』

そしてそれに添えられた白薔薇は『貴方と一緒にいたい』という意味を内包する。

 

 

イギリスで散々教えられてきた、花に込められたメッセージ。

欧州では、下手に薔薇を相手に送ってはいけない。それは時として愛の告白の象徴にもなる。

それが、特にドイツやフランス、そしてイギリスでは。

 

 

「…っ、それでも、」

「跡部、さん…?」

 

「お前は俺に、それを贈るって言うのか、」

 

 

 

 

好きだった。

何がといわれたら困るほど。全部のようでいて、全部ではない。

 

けれど、コイツでないと――――

 

 

 

 

「…跡部さん。」

 

 

 

 

そしてこの瞬間を、自分はどこかで期待していたような気もする。

 

 

 

 

 

 

「……好きです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

堪らず抱きしめた体の間から、くしゃりと花のつぶれる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

けれど、この温もりを――――

 

コイツを、手離すことは、できない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(I  Have  Loved  You.)
(ああ、けれど)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

16歳。

 

 

 

 

俺はコイツに、恋をしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

|終|

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

21.1006(再編)