――――――それは、幼いころの小さな約束。

 

 『ずっと、景吾君と、一緒に、居るよ』

 

 

 

 

 

 運命、というものを易々と信じる性質(タチ)ではなかった。

 何故なら巨大な見えない力に自分達が支配されていると言う響きが気にくわない。そもそも見えないものを信じられる筈などなく、「運命」やら「赤い糸」やらを持ち出してそれに固執する者を見ては、どこか身の毛のよだつような思いを抱いていた。

 

 ならば自分のこの想いは一体何なのだろう

 

 どこまでも相手に固執し、束縛し、まるで中毒にかかったように傍に居ないと不安になる。

 けれどもその理由は、理屈ではない。

 

 

 俺とアイツはどこでも一緒に居られると思っていた。

 だがそう思っていた根拠は一体何だったのだろう?

 こうやって少しの地盤が不安定になるだけで今まで信じていた何もかもが揺らいでいく。そしてそこに立たされて改めて今までの『当然』が本当の意味で『当然』でなかったのを思い知らされる。

 

 

 

 ――――――幼いころに、約束をした。

 

 それが、しかし、一体何だと言うのだろう。

 

 その言葉を何時まで保っていられる?

 その言葉だけで一生を過ごせる保障などあるのか?

 その言葉をあいつが何時まで守っていられるんだ?

 

 

 

 ――――――何もかもが、分からなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――――え?」

 壁に手をつかれ、囲まれるような体勢になりながら、女は聞き返した。

 見上げたところにあるハーフ交じりな透き通ったアイスブルーの瞳が冷たく煌めく。

 突然の出来事に張りつめた空気を感じながら、女は静かに唾を嚥下した。

 

 「いいじゃねえか。」

 

 困惑した表情の様子の女を見ながら、男の方は余裕の笑みを浮かべた。

 

 「俺は金もあるし、自分で言うのもなんだが顔だって悪くない。惚れた奴にはとことん優しいつもりだしな」

 

 そこで男は女の耳へと小声で囁いた。

 

 「――――不服はねえだろ?」

 

 女は近距離で聞こえる声に肩を少し揺らすと、近距離で見える男の端正な顔に息を呑んだ。

 女の黒髪と男の金に近い茶髪が交る。

 男が女の唇に自分のそれを重ねる、まさにその瞬間だった。

 

 「ごめんなさい」

 

 消入りそうな声。

 目を見開いた表情で男の動きが止まる。

 女はうつむくと、体の前で両手を重ねた。

 

 「やっぱりおかしいと思うんです。私と、あなたが、そういう・・・関係になるのは」

 

 おそらく生涯で誰にもフラれたことのないであろう男を目の前にしていざフルとなると勇気が居るのだろう、女は震える手や声を必死に抑えて、しっかりとした口調で言葉を紡ぎ始めた。

 

 「それに」

 

 女は一呼吸置いた。

 

 「私―――好きな、人が」

 

 ここには居ない、体が大きくて心優しい同級生を想い浮かべて、女は呟く。

 

 「本当に、ごめんなさい」

 

 男が動かないのを良いことに、女は男の囲いから抜け出すと走り去った。

 

 女が居なくなった後、耳が痛くなるほどの静寂の中で男は一人崩れ落ちた。

 

 

 その様子を、すべての成り行きを見守っていた静かな瞳が見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――何時でも、傍に居るだなんて、

 

 

 そんな約束を本当に信じていたわけでもない。

 

 

 けれどいざこの手からすり抜けてしまうのならば

 

 

 

 ならば、いっそ、この手で―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「―――――――死ねよ」

 

 

 跡部は静かに目の前の幼馴染に言い放った。

 言われた幼馴染は軽く目を開いただけで、目線を跡部から、跡部の手にある小振りのナイフに移す。

 

 

 「お前が、もしも、報いるっていうなら、」

 

 

 「死んでみろよ」

 

 

 

 

 きっかけは、一週間前、この幼馴染が休日に跡部の誘いを断ってからだ。

 

 『日曜は、先約、が』

 なんて、これまでに初めての展開で。

 

 『――――へえ、なんだ、デートか?』

 軽い冗談で聞いてみれば、静かになる空気。

 

 

 まさかそんな事、あるはずなんてないと、思ってたのに。

 

 

 

 『この前の日曜の、埋め合わせに、』

 何かしたいとこの幼馴染が言ったのはつい5分前だ。

 それに対して跡部が切り出したのが、上の提案だった。

 

 

 

 

 

 「埋め合わせ、なんだろ」

 

 

 

 できるはずないと、知っていた。

 けれどそうでもしなければ気が狂いそうだった。

 違いは、自分で死ぬか、それとも殺すかの違いだ。

 

 

 ――――――――幼いころの口約束だけで、生きれるはずがない。

 

 いつまでもコイツの目が俺だけを見るなんてどうして信じられる?

 

 

 ならば、ならばいっそ

 

 

 その眼が、誰かに向かう前に―――――――――

 

 

 

 

 

 「・・・なんでもない。悪ぃな、今気が立ってんだ」

 

 

 

 しばらくの沈黙の後に、軽い素振りで跡部は幼馴染に言った。

 ナイフを机に置くと、眉根を手で押さえる。

 

 「今日は、ちょっと帰ってくれねえか・・・明日――――」

 

 

 

 

 

 

 

 だが跡部の言葉は、それ以上続かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初、跡部の目に入ったものは鮮血だった。

 褐色の肌からとめどなく溢れるそれは、五本の指を伝い、絨毯へと滴る。

 

 そして耳に入ったのは、ナイフの落ちる音と、幼馴染の大きな体が倒れる音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「樺地・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 跡部の薄い唇から洩れた声に、樺地は一回ピク、と動いたかと思うと、そのまま動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 絨毯に広がる赤い染み。

 

 

 血のついた小振りのナイフ。

 

 

 白く、冷たくなっていく体。

 

 

 

 

 

 

 樺地。

 

 

 かばじ。

 

 

 

 か ば じ

 

 

 

 

 

 

 

 「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 運命なんて、信じたことはなかった。

 

 

 だけど、俺とアイツには何かあるような気がしてて。

 

 

 

 いつまでも俺だけを見ろなんて、そんな子供じみた想いを持て余して。

 

 

 

 

 

 こんなつもりじゃなかった

 

 

 

 

 まさか、こんな

 

 

 

 

 

 「崇弘!崇弘!!!!崇弘ーーーー!!!」

 

 

 

 

 お前をこんな風に、するつもりではなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

(ああい糸よ小指ではなく私の首に)

(、)

 

(引っ張れば共に死ねるでしょう)

 

 

 

 

 

 

(ただお前を、俺の世界から外へ逃がすのが耐えられなかっただけなのに)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

なんていうか・・・・ごめんなさい。

 

文章力無いのに妄想だけが先行してしまい、最後あたり自分が泣きだしてるって言うダメっぷりで・・・!!!

 

樺地を殺すなんてもう私には出来なくて出来なくて・・・!

 

 

ただ、跡部の愛っていうか、跡部の重い愛っていうか、そういうのが行き過ぎた場合にこういう結果に陥ってしまうのではないかと思ったわけです。

 

途中で男と女と書かれているのは、跡部と、ラッシュ&ドリームのヒロインです。

ヒロインは樺地とデートした設定。

 

樺地が最終的にああいう行動をとったのは決して正しくはないけれど、ただ、樺地の頭の中では、跡部にとって自分が邪魔者なんだろうという想いがあったんだろうと思います。

樺地にとってもそれは辛かったんだろうなあと思います。

 

ただ・・・やっぱり、その、なんていうのか、こういう話は書くもんじゃないですね←

 

 

 

ちなみに反転で、言っておきます。

 

 

樺地は死んでません。(私が耐えられないから)

 

 

 

そのうち続きを書く・・・かもです。

 

一応。

 

 

本当に、すみませんでしたああああっ!!!