ふわり、ふわり。
あえかな光が姿を現しては消え、現しては消えていく。
「…綺麗だな」
この時期に現れる蛍が売りのホテルの中庭、その一角を人気の時間帯やシーズンであるにも関わらず貸し切りの状態にしたのは跡部だ。
ホテルの人や蛍を楽しみにしてる人を申し訳なく思う樺地を他所に、存外跡部は楽しそうだった。
そしてそんな跡部を見てしまえば樺地は何も言う事が出来ない。
結局一番弱いのは自分だよなあと思いつつ、樺地は密かに溜息をついた。
だが暗がり、視覚を奪われた状態では何時も異常に聴覚が発達するのか―――いや、そうでなくてもきっと跡部には樺地の溜息が聞こえたのであろうが―――拗ねたような声が川のせせらぎに混ざって聞こえた。
「…んだよ、お前、今ここがどんな場所かわかってんのか?」
その言葉に、う?と樺地首をかしげると、跡部は蛍のを方を見て話を始めた。
「蛍が光るのは求愛行動だ。成虫で生きられるのはほんの僅かしかねえ―――その間に相手を見つけて子供を残さなきゃいけねえ。こんだけ静かなのに、あいつ等は光る事で相手にアプローチしてるんだ」
そんな雰囲気の中で、ふつう、二人っきりなのに溜息をつく奴があるか、馬鹿。
そう言われて、樺地は顔を赤くした。
そういえば聞いたことがある、と樺地は思った。
たしか「恋に焦がれて鳴く蝉よりも、鳴かぬ蛍が身を焦がす」とか、そういう事だ。
――――ああでも、確かに、そうかもしれない。
「な、ら」
「あん?」
「言葉にしない、けど、でも、」
「?」
「自分は、跡部さん、を」
誰よりも、
「好きです。」
普段は決して、言葉にしないけれど。
「なっ、」
それだけ言って、跡部の体は後ろに倒れかけた。
慌てて樺地がそれを押さえる。
「お、前………!!!!」
ふわり、ふわりと淡い光が漂う。
その光に照らされた跡部の頬は、赤かった。
(ああ、綺麗だなあ。)
和より洋の美を持つ跡部だが、蛍に照らされたその姿は幽玄の美を醸し出している。
くい、と裾を引っ張られて樺地は跡部を見た。
アイスブルーの瞳が淡い光を放つ。
それは蛍の光か、目の錯覚か。
いやきっとどちらとも違うのだろう、と樺地は首に巻かれた温もりを感じながら目を閉じた。
(鳴かぬ二人が、身を焦がす)
寄り添う二つの影を隠すように、光の群れが舞い上がった。
|あとがき|
文才を手に入れることはもう諦めました(笑)
どうにもならないことってあると思うんだよね、うん。
ところで跡部の蛍の話は半分くらいでまかせです。
求愛行動なのはあってると思うんですが…←コラ
ホテルで蛍を見たので、書きました。
すごい綺麗だったです…。
写真撮ろうかと思ったのですが、フラッシュとかたいたら自分で萎えるなと思ってやめました。
皆さんにお見せできなくて残念です…!
そしてこんな文章だったら想像するのも難しいっていう!
ただ、蛍見てたらイチャイチャしてる樺跡を妄想してしまったのでうpしました…
本当にすみませんっ!!!!(逃亡)