パサ、というよりは、バサ、という音の方が相応しいくらいの量の花束だった。

 

 

彩り鮮やかなそれを手渡され戸惑っていると、その大きさのせいで見えない向こう側から、その人にしては珍しく曇った声が聞こえた。

 

 

「…庭に花があって、枯れそうだったから持ってきた」

 

 

 

――――枯れ、そう?

 

 

彼の言葉とは対照的に、花は今を限りとはちきれんばかりの生命力を全面に押し出して、咲き誇っている。

 

 

疑問を口にするよりも前に、今度は自棄になったような声が響いた。

 

 

 

「お前には綺麗に見えるかも知れないけどな!そこまで咲いたら後は枯れるしかねぇだろうが!!俺はそんな花には興味ねえんだ―――それに、」

 

 

 

と思えば、今度はたどたどしくなる。

 

 

 

 

「―――いつも、助かってるからな。………………あり、が、とう」

 

 

 

 

そしてぎこちない感謝の言葉。

 

 

 

 

 

相手の顔をしっかり見たくて、樺地はその大きな花束を大事そうに抱えて、そっと脇に寄せた。

 

 

 

 

すると、鮮やかな花の向こう側に見える、花よりも赤い顔。

 

 

 

 

(本当は、花などなくてもいいんだ。君の、その感謝の言葉だけで。)

 

 

 

 

けれどこの大きな花束に、跡部の想いが籠もっているのだと思うと、大事にせざるを得なかった。

 

 

 

きっと、どれが良いか悩んで、一生懸命選んでくれたんだろう。

 

 

 

 

その時間すら、愛しく思える。

 

 

 

 

 

「俺、が、跡部さんの傍に居るのは、」

 

 

 

 

一本、鮮やかに咲く大輪の花をぬきとって、樺地は言った。

 

 

 

「跡部さん、が、そこに居てくれるから」

 

 

 

 

そして差し出した。

 

 

 

 

「あり、がとう」

 

 

 

 

 

 

 

(僕が君の傍にいるのか、君が僕の傍にいるのか)

 

 

 

(今となってはもう分からないけれど)(、)

 

 

 

 

 

「バーカ…」

 

 

 

悪態にもならない悪態をついて、跡部は花をひったくるようにとると、歩き出した。

 

 

 

 

 

その花に跡部がキスを落としていたことなど、誰も知らない事実である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

|後記|

 

 

 

 

春ですね。

(2009.04.30)