こぽこぽと優しい手付きで紅茶を注ぐ樺地の様子を眺めながら、跡部は満足そうな息を吐き出した。
今日この日に、“二人きりで”と言い出したのは樺地の方からだ。いつもは跡部の方が適当な理由を何とか作り、無理に樺地を誘ったりするものだが、今日は違ったのだ。跡部が満足しないはずがない。ただ、一つの点を除いては。
この日を祝うため、跡部は樺地に『お前、何が欲しい?』と問うた。勿論跡部は、樺地が“クリスタルパレスを”といおうが、“別荘を海外に一つ”と言おうが、不況の波などさして気にも留めず―――実際問題、樺地はそんなことを言わないし、不況など大富豪の跡部邸には関係ないことだが―――買ってやるつもりだった。
ところが樺地の口から飛び出したのは、“二人きりで祝ってもらっても、良い、です、か” だったのだ。
あまりに可愛らしいお願いに、一瞬眩暈をおこしそうになった跡部だが、肩透かしを食らったのも事実だ。
(何か、そうじゃなくて物とか、なんかねえのか)
日本の首都で樺地への愛を堂々と披露するこの男は、今年の誕生日には本気で“世界の中心で愛でも叫んでやろうか”と思ったくらいなので、二人っきりで、それもささやかに祝うのはなんだか物足りない。
いや、きっと世界で愛を叫ぼうが、物足りないことには物足りないのであろうが。
ゆっくりと、こぼさぬように気を使いながらこちらへ向かう樺地に、跡部は寄りかかっていたファッションから身を起こして紅茶を受けとった。
「サンキュ」
「ウス」
そのまま跡部の隣へと腰を下ろす樺地に声を立てず口角を吊り上げただけの微笑みをよこす。
さてその温もりに寄りかかってやろうかどうかと考えていると、ふと見覚えのあるものが視界の端に見えた。
(あれ・・・)
思わず立ち上がり、手にとってそれを見ると、「あ」と慌てたような声が後ろから上がった。
(これ、俺がこいつに初めてあげたもんじゃねえか?)
そう、それは出会ってから初めての誕生日に―――イヤ、正確には誕生日ではなかったのだが―――あげた、なんてことのない絵本だ。
「こんなもん・・・まだ持ってたのかよ」
口ではそう悪態をつくものの、頬が緩むのを止められない。この十数年という間、ずっと待っていたのだ。こんなに綺麗(使いこなしているが)なままで。
「ウス・・・初めて、もらった、から・・・。でも」
「でも?」
「今は、二人きりの方が、・・・・」
「・・・・・っか、このやろう・・・」
言いながら顔を赤くする樺地につられ、跡部も自然と顔が赤くなる。
(ああ、なんて愛しい)(、)
(――――誕生日、あめでとう、樺地)
(・・・ウス・・・・)
何年、何十年経っても
愛しい君へ
Fin
|あとがき|
小話にしようかと思ったのですが、コチラにアップすることにしました。
これをかいたのがあのヤンデレシリーズの『doom』の後ということもあって、幸せな二人を描きたかったのです。
乱文、失礼いたしました。