拒める筈など無い。

 

 

その熱を、その眼差しを。

 

 

 

 

 

「あと、べさん…!」

 

 

 

これ以上すればもう止められない、とその瞳が雄弁に語っていた。

 

おそらくは、理性のある内で最後の警告だ。

 

 

だが、止まる気などなかった。

 

気持ちと異なり、体が未知への怖れに怯みそうになっていても、止まろうとは思わなかった。

 

 

 

 

――――待ち焦がれてた熱だぞ。離せるか。

 

 

 

きっかけは自分からしたキスだった。

でもタガが外れたのは、この年下の幼なじみが応えるように深く求めてきたからだ。

 

 

自分と同じで、相手が感じているのもまた恐怖だ。

 

経験したことのない道へと進む、背筋が震えるような未知への恐ろしさ。

 

そして、それを与えるのは間違いなく自分だ。

逆の立場であれば、こいつだとてここまで拘る事はしなかっただろう。

 

だが、ソレすらも拒む自分は、間違いなく我が儘だ。

 

 

仕方ない、と誰に言うでもなく心中で言い訳をする。

 

 

逆になるにはこいつは大きすぎるし、何しろ自分が望まない。

 

おかしなことだと、分かっている。

紛れもなく自分は男で、相手が困った顔をすればするほど心の奥がゾクゾクするタイプだというのに、コイツを受け入れたいと思う。

 

 

ああむしろ、コイツが困るから受け入れたいのか。

 

 

キリのない問いをしては、笑う。

 

 

 

―――言い訳をしても、結局事実は変わらないのだと知っているくせに。

 

 

 

だから、溺れてしまえ、と呪った。

 

 

気持ちがまだ震えるなら、唱えてやる。

 

 

『お前』が、『俺』を許す呪文を。

 

 

 

 

 

 

「―――止まるな」

 

 

 

「崇弘」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……来いよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

諦めたように、いやむしろ困り顔で、おずおずと触れてくる手を捕らえて、食わえた。

 

 

太い指とその股を舐めてやると、ピク、と指が動く。

 

 

 

―――こういうのを獲物とかに例えたら、間違いなく今お前の方が捕らえられた獲物なんだろうな。

 

 

体格的にも、腕力でも、自分より勝るというのに。

 

こいつは絶対に無理強いはしない。

 

 

―――お前も、一度理性なんか飛ばしちまえばいいんだ。

 

 

そうしたらその時初めて得られるのだろう、自分が欲しかったもの、全て。

 

 

 

 

 

 

 

 

最初から、拒めるはずもなかった。

 

深くなるキスも、熱い舌も、体を弄る大きな手も。

 

 

男同士であろうと、なんだろうと、拒む訳がないのだ。

 

欲しいモノを。

 

 

 

―――いっそ、お前無しではどうやって生きたらいいのか分からないくらい、刻みつけてくればいいのに。

 

 

 

 

一線など、初めから無かった。

 

 

俺たちの間に、そんなものは。