――――綺麗だなあ、と思った。

 

 

 試合に負け、自ら坊主になった跡部さんの潔さは、屈辱の敗北というレッテルの代わりに王者の高潔さを表していた。

 

 だから、部内で坊主になった跡部さんを尊敬の目で見る部員はいても、哀れむような、または蔑むような目で見る者はいない。

 

 

 

 そして自分は、その高潔さに導かれるように、跡部さんと同じことをした。

 

 

 負けてしまった跡部さんが坊主になるなら、と思ってだったのかどうか、自分でも確かではない。

 それは本当に、自然のことのように―――気付いたら自分も坊主になっていたので、後悔もなかった。

 

 

 

 だから、それはどうでもいいのだが。

 

 

 

 

(綺麗、だなあ)

 

 

 

 坊主になってから露わになった跡部さんの項というか―――首筋から、どうしても目が離せないのだ。

 

 

 

 

 ふと衝動的に、その白い首筋にそっと触れてみた。

 反応はない。

 つ、と力を込めると案外と柔らかかった。肉付きがあるというのではなく、むしろ筋肉質ともいえる跡部の体だが、首筋には弾力がある。

 

 

 窓から漏れる日の光に白く反射する項は、見てはいけないものを見ているような気分を湧き起こさせたが、何故だか目が反らせなかった。

 よって目をそらすことも指をどけることもできず、それどころか本能に従って撫でてしまいたいと思ってしまった。

 

 

 

 つう、と指を下げると肌触りがなめらかで。

 

 

 離しがたいと思った、の、だが。

 

 

 

 

 

 ――――そう思うと同時に、その項が細かく震えているのに気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 あ、と気付いた時には既に遅く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お…っ、おまえ…!俺様が起きてるの忘れてるんじゃねぇの…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …すみません、跡部さん……

 

 

 

 

 

 

 

(――――忘れて、ました)

 

 

 

 

 

 

 

 とはいえるはずもなく。

 

 

 

 

 

 「す、みませ…!」

 

 

 

 顔に全身の血が昇って行くのを感じた。

 

 

 ああ恥ずかしい。自分は何をやっていたんだろう。

 

 

 パッと手を離せば、跡部さんがなぜかじっと自分の手を見ていた。

 

 

 もしかして、気に障っただろうか?

 

 

 

 「あ、の、跡部さん…」

 

 もう二度としませんから。

 

 そう言おうとした口は、けれど跡部さの言葉に遮られた。

 

 「…べ、つに、駄目とかいってねえぞ」

 

 

 

 ――――え?

 

 

 どういうことだろう、謎だなあ、と一時停止した思考を懸命に動かすと、跡部さんは焦れたように叫んだ。

 

 

 「ま、まあお前が俺様の色気に中てられるのも分からなくはねえし…だ、からその…」

 

 

 色気?もしかして自分は跡部さんの色気に中てられたんだろうか?

 だとしたらそれは相当恥ずかしいことだ。

 

 「触ってもいいんだよ…お前が好きな時に」

 

 「…」

 

 「…おい何とか…」

 

 「あ…ウ、ウス」

 

 

 気付けば跡部さんの顔もなんだか赤くて。

 

 

 さっきみたいに、見てはいけないものを見てる気分にさせられる。

 

 

 

 

 (……でも、)

 

 

 

 ――――跡部さんは触ってもいい、って言ったけど、

 

 

 

 

 

 

 (ちゃんと自重しよう。)

 

 

 

 

 

 

 

 樺地がそう堅く胸の中で誓ったことなど、跡部に分かるはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+  +  +

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (お前ら俺達がいるってこと忘れてないですか…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな部員たちの心境が、跡部と樺地の二人に分かるはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樺跡in部室=ハタ迷惑。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

|後記|

 

 跡部が最初抵抗しなかったのは、何が起こってるのか分からずフリーズしたためです。

 久しぶりに乙部をだしてみました。あれ?久しぶりじゃない?アニメ見てると乙部がたまにひょっこり顔をのぞかせるので、何が乙部で何が乙部じゃないのか分からなくなりました。

 

 あと樺地が、もっと中学二年生っぽかったらいいな!と思い、まあちょっとこう…項にムラッ←

 とかしてみせたんですがいかがですかね…!私的にはとても萌えました。

 樺地を人間ぽく()というか、本能のままにさせたら跡部なんてもう…!とか思うの、私だけでしょうか。

 

 

 

 そして忘れちゃいけないんだぜ、お前ら、ここ、部室だかんな!!!!