「おいアトベ!!!おまえ結婚するって、マジか!?」

 

 

天宮の東塔に入れるものは少ない。

だが、アトベとともに狩などして、遊んできたというか闘ってきたというか、まあ幼い頃から共に過ごしてきたシシドは、勝手知ったるアトベの部屋のドアをノックなしにあけて。

 

 

 

―――そして、驚愕に顔をしかめた。

 

 

 

「ん。なんだ、シシドか。」

 

 

 

桃色の裾の長い装束を身にまとい、左手を恍惚とした表情で見つめていたのは。

 

 

つい一週間ほど前まで狩衣を身にまとい、猟師のように獲物を残忍な表情で狙っていた、

アトベ本人だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始まり
   〜そして、久遠なる流れの中で〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、おまっ、なっ、なっ、なっ、なななななななななななな」

「お前、今面白い顔してるぞ」

 

そう言って茶化すように笑うアトベの笑いすら、シシドは今までに見たことが無いと思った。

否、もちろんこれまでにだって茶化される事は多々あった。

けれどこんなふうに、柔らかく、まるで聖母のような優しさを持ってではなかった―――今までの宍戸の記憶の中では。

 

 

天境というものは何か別の世界と混ざりやすいもので、その付近に配置されると言うのは天王の信頼を得ているということもあって中々偉い身分の将軍が一年毎に配置される。

そして、今年天境の担当になったのがつい先日異例の若さで大将に任命されたシシドだったのである。

だが勿論、中央―――つまり天宮付近での仕事もあるので、シシドは毎日忙しなく動き回っている。

血の気が多い割に、なにかと頭を柔軟に働かせることも少なくはないので、誰もがシシドの前途を洋々と捉えている。

 

よって、舞い込む縁談の数がアトベに負けず劣らずだと噂されていた。

その愚痴をアトベに話したのが、一週間前だったのだ。

そしてその時のアトベは、シシドの記憶が確かなら―――今となっては本人も信じることはできないが―――シシドに賛同して、しかも、「結婚なんか人生の墓場だ」とまで言っていた気がする。

 

だからシシドは、天境で「ししししししし、シシドさあああああああああああん!あ、ああああ、あ、アトベ様が、ごけ、ごけ、ご結婚なさるそうですっ!!!!」と、何故か一度命を助けたらそれ以降なついてきた医者のオオトリの報告を聞いた時、なんてタチの悪い冗談かと思っていたのだ。

 

 

それが、報告書を提出するために天宮付近に来てみれば、城下町は「祝アトベ様ご結婚」だとか「おめでとうアトベ様」だとか「末永くお幸せに」という旗でにぎわっていて、シシドは度肝を抜かれた。

 

まさか、と思い陽気な声で饅頭を売ってる中年の女に話を聞けば、まあその話の事細かなこと、一体どこから漏れたのかと思うぐらい詳細を語ってきたのだからシシドは今度こそ信じざるを得なかった。

 

お相手はなんと中流階級の、それも地味な顔立ちの男と聞いたが、アトベの性格をよく知っているシシドはその相手に合掌した。

 

何せアトベは、自分より強くなければ男としては認めていない。

シシドのことですら、男と言うより「友」という基準で捉えているだろう。

 

さてでは今どんな心持で居るのだろう、とアトベの部屋に来てみれば、これだ。

 

 

 

一体何が起こったというのか。

 

(もしかして呪いでもかけられたか?)

 

シシドは極めて真面目に、そう思った。

以前からアトベの父親であるオシタリが「もうあいつ催眠術にかけたろか!?」とよく愚痴っているのを聞いたので、あまりに結婚しない娘に耐えかねてもしかしたら国で一番の催眠術師を呼んだのだろうか?

 

これは、アトベが恋によって性格を変えたというよりは、シシドにとっては十分、理にかなった話でもあった。

 

 

「おいアトベ、いいか、これくらいのヘビ怖いか?」

 

シシドは掌を適度な長さを隔てて向かい合わせた。

 

「あ〜ん?…馬鹿にしてんのか?」

「そうか…」

 

 

跡部の言葉を受けて、シシドはその掌同士を跡部の顔の前に持ってきた。

 

そして―――――

 

 

パンッ!

 

 

跡部の前で、思いっきり、叩いた。

 

 

催眠術にきくのは、確か、大きな破裂音と驚きであるとシシドは知っていた。

性格はアトベのままらしいが、もしかしたらそういう高度な催眠術なのかもしれない。

 

いきなり目の前で手を叩かれたことで驚いているアトベの様子をシシドはまじまじと見て、さて反応はいかに、と期待して待ってみた。

 

 

が。

 

 

 

「?何してんだ?」

 

 

キョトンとした様子で小首を傾げるアトベの様子を見て、シシドは先ほどよりも、より一層、驚いた。

 

 

と言う事は、これは「本物の」アトベという事なのだろうか?

 

 

 

「お前、アトベか?」

「はあ?…やっぱり、ちょっと天境行って馬鹿に磨きがかかったみたいね…」

「っるせえ!ってか女っぽい仕草してんじゃねえ!」

「あのねえ、一応私女なんですけど」

 

言葉を聞いてやはりおかしいとシシドはぎょっとしたが、顔は言葉と対照的に皮肉っぽく歪められていた。

その顔こそ、シシドが見慣れた、いつもの跡部の顔だった。

 

 

と、いうことは、どうやら本気で結婚するらしい。

 

 

「…マジかよ」

「何の話―――ああ、結婚か」

「ったく、相手は誰なんだよ。まさか体術で負けたとか?」

「まさか」

「じゃあなんだよ、顔が地味だって聞いたけど、実は相当美形とかか?」

「シシド」

 

珍しくアトベが真面目な顔して遮ってきたので、シシドは少しひるんだ。

 

「な、んだよ」

「顔が地味とか、そういう事は関係ない。あいつはあいつだ。純粋で、無垢で―――あんな奴、会った事ねえ」

 

 

ため息交じりにいうアトベの様子に、穴戸はいよいよ面食らった。

マジだ。

マジで、惚れてしまったのだ。この男を男と思えないこの女―――シシドの方もアトベを女とは捉えられなかったが―――が、どこかの男に、こんなにも。

 

 

「何が決め手だったんだよ」

「決め手?」

「結婚しようって、思ったんだろ」

「ああ…そうだなあ、強いて言うなら、」

 

 

 

腕。

 

 

「…腕?」

「あくまできっかけの話だけどな、こう、抱き締められた時に」

「抱き締められた?お前が?」

「?うん」

「相当でかいな、ソイツ…」

「まあ、確かにこれくらいだな」

 

 

アトベが自分よりも結構高い位置に手をかざしたのを見て、シシドはうへえと声を漏らした。

アトベがそもそもシシドより背があるくらいなのに、そんな大男にはついぞお目にかかったことが無い。

成程、アトベが「抱き締められた」と言った訳もよく分かった。

 

と、かざした跡部の左手、薬指に、キラリと光るものがあるのをシシドは見つけた。

そういえば先ほど部屋に来た時も、やけに大切そうに見ていたソレ。

 

 

「……まさかお前に、そんな趣味があるとはな」

 

今まで育ってきた幼馴染。

急に結婚すると言われて、祝ってやりたい気持ちが無いわけでもない。

けれど、突然すぎて、中々祝いの言葉が出てこない。

笑顔で祝いたいような、どこかさみしいような気持ちを胸に抱いて、シシドに今できるのは憎まれ口をたたくことぐらいだった。

 

だが、アトベはそんなシシドの心境を知ってか知らずか。

フッ、と息をついて、やはり嘲るような笑みで、こう言った。

 

「最近やけに『デカイ犬』に懐かれて顔を真っ赤にしてる、お前にだけは言われたくないね」

 

『デカイ犬』―――が何を指すかを瞬時に読み取って、シシドは顔が爆発しそうになるのを感じた。

 

 

「っめえ、人が折角祝ってやろうと思ってんのによ!」

「はっ、残念だけどお前にそんな事言われると寒気がするから、結構だ。」

「っの、野郎…っ!」

 

 

 

決して普段も静かではない東塔から、誰かと誰かが壮絶に戦っているかのような音が響き始めるまで、あと五秒。

 

 

 

+  +  +

 

 

 

 

「…カバ、ジ」

 

 

結婚前夜、妙に心が震えた。

 

カバジを怖いと思った。

愛しい、そして怖いと。

 

明日、明日になれば。

全てを奪われてしまうのだ。

 

 

――――そして、今がその「明日」なのだ。

 

 

「ウ…ス」

「なんだよ、改まって。変な奴」

「だ、って」

「うん?」

 

 

寝床に二人寄り添えば、重なるぬくもり。

 

 

「アトベさん、は、綺麗で」

「…なに、」

「あの日、から、ずっと、」

 

 

まるで、光がこの手に落ちてきたと思うぐらいに。

 

それは、眩しくて、

 

そして、綺麗で。

 

 

 

「…ばか、」

「ウ、」

 

 

最近、地なのか言葉使いが乱暴になって行く。

けれどそんな言葉さえ、妙に似合ってしまう、と。

そう思うと言う事は、そうとう惚れこんでいるのだろうか、とカバジは顔が熱くなった。

 

「それは、同じ、だから」

「…?」

「だから、そう思ったのは、お前だけじゃなくて、」

 

 

自分も、そう思ったのだと。

 

ああ、愛しい人。

 

 

「………ったく、嬉しそうに、してんじゃ、ねえ」

「…ウス」

「…前に、声が聞こえると、言ったよ、な」

「?ウス」

 

 

アトベさんの声は、何をしていたって聞こえるから。

 

 

「―――なら、今、読みとれよ」

「、!」

「…分かる、だろ」

 

 

カバジの裾を引っ張って、顔を真っ赤にして。

 

そんなかわいらしい姿に、カバジは思わず、目の前の体を抱きしめた。

アトベは、突然の抱擁に、ただされるがままだった。

 

けれど、首筋に感じるぬくもりに、愛しさが募ってゆくのを感じて、抱き返す。

 

 

 

 

怖いとは思ったけれど、それはカバジにではなかった。

 

誰だって、慣れない事は怖いものだ。

 

 

 

 

 

 

 

+  +  +

 

 

 

 

 

 

それからカバジとアトベは、天上界でも評判になるほど、夫婦円満に暮らしてきた。

 

 

 

だが勿論、そんな彼らの幸せな日々は、そう長くは続かなかった。

 

 

 

「――――と、ゆーわけで、や!!!お前ら最近いちゃつきすぎとちゃうんか!?」

「…父さん、話が突飛すぎる」

「突飛やと!?」

 

 

何時になく憤った様子を見せるオシタリの様子に、アトベは聞く様子こそ見せないものの、下手な反抗だけはしないように努めた。

 

珍しくガクトもその柔らかな頬を固くしている。

 

それもその筈だ。

アトベは先日、皇女の仕事―――つまり、下界の天気をつかさどるという仕事を、あろうことかサボってしまったのである。

 

天の川は、水を止めてある堰がなければあふれかえってしまい、『雲の通路』を通り抜けて下界へと降り注がれる。

それはそれは大地を使い物にするほど大量の雨が降るのだ。

 

かといって堰を閉めたままにしておけば、壊れてしまう。

だから、一週間に一度でも、氾濫しやすい梅雨の時期は二日に一辺でも、堰を開けなくてはならない。

その役目をつかさどっているのが、皇女アトベだった。

だが彼女は、その仕事をすっかり忘れていたのだ。

 

そしてその理由が、カバジとずっと一緒に居たためなのである。

 

「どこも話はずれてへん!つまりお前がきちんと堰を開けてたら、今下界で怒ってるような大氾濫は起こらなかったんや!見てみい!!大地の神があと少しで溺れるところやったんやで!!!」

 

それに関しては、アトベも苦い思いを抱くしかなかった。

普段だったら絶対に犯さないようなあやまちであったのに。

それでも犯してしまったのは、カバジの腕の中が何時も心地いいからだ、と頭の中で責任転嫁をしていると、それを見抜いたかのようにオシタリはきっぱりと言った。

 

「ゆうとくけどアトベ、これはお前の問題や!お前がしっかりしとらんかったのが悪い!」

「…、ごめんなさい」

 

やはり何時になく激しいオシタリに、アトベは少しひるむ。

けれど、どうやらその様子をオシタリは反省していないと取ったのだろう。

天王らしい、威厳をもった声で、アトベに対する罰を発表した。

 

 

「アトベ―――そしてその配偶者であるカバジ。お前らはちょっと仲がよすぎるみたいやな…残念やけど、お互い住居を別々にして、天の川をはさんで暮らしてもらうことにするわ!!」

 

「―――、っな!」

 

 

呆然、と言った表情で、アトベは血の気を失った。

勿論その隣に居た樺地も同様である。

 

「っ、んで!」

「当然やろ、お前はやってはいけないことをやったんや。それをまさか天王の娘だからと言って責任逃れはでけんのやで」

「カバジは関係ないだろ!」

「―――でもアトベ、お前の今回の失敗の原因は、なんだったか分かってんだろ?」

 

食いつくように反抗するアトベを、今まで黙っていたムカヒまでもが言いくるめるように諭した。

 

「でも…っ!」

「アトベ、お前は、昔だったらそんなヘマをしなかった」

「…」

「こっちだって辛いんだよ…分かってくれ」

「…分かった、母さん」

「アトベ…」

 

 

 

アトベは項垂れて、しおらしく頷いた。

 

 

その悲痛そうな面持ちに、オシタリもムカヒも、何も言えなかった。

 

 

 

 

+  +  +

 

 

 

 

 

 

――――と、いうのに。

 

 

 

 

 

 

「っ、ざけんじゃねええええええええええええええええええ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

自室に帰るなり、アトベは人が居ないのを確認してから外へと咆哮した。

 

 

 

 

しおらしく部屋に帰ってきた時とは打って変わったアトベの豹変ぶりに、カバジは少なからず驚く。

 

 

「カバジ!」

と、アトベが行き追い付いた様子で呼ばれたのでカバジは思わず姿勢を正して返事をした。

「ウ、ウス」

 

 

だが、アトベから返ってきたのはとんでもない言葉だった。

 

 

 

 

 

「――――お前、私がどんな姿になっても愛せる?」

 

 

 

 

時間が、止まったと思った。

 

 

 

 

 

「…!?」

 

 

三秒ほど経ってカバジがようやく跡部の言葉を理解すると―――理解と言う言葉は語弊かもしれないが―――声もない様子で眉をひそめた。

一体、何の話なのだろうか。

 

「何しろ危険性は高いし…もしかしたら同じ時代に生まれないって可能性も…でもそれは流石にないよな…」

何事かやはり不思議な言葉を未だアトベはブツブツと呟き続けている。

危険性?時代?生まれる?

はてなで頭がいっぱいになったカバジは、暴走しているアトベを止めるために口を開く。

 

「ア、トベ、さん!」

「でもやっぱりこれしか…ん?なんだよ?」

「一体、なん、の、話、」

 

そこでようやく、アトベはああという顔つきになった。

どうやらカバジに話すのを忘れていたらしい。

けれど、ようやく話の糸口が見えてくるのか、とカバジが安堵したのは束の間だった。

アトベが口にしたのは、とんでもない話だったのだ。

 

 

 

「カバジ、私と――――下界に行かないか」

 

 

 

 

 

 

本当にこの人は、とんでもない。

 

 

 

 

+  +  +

 

 

 

 

「何時か前に、私の目には力があるって聞いて、」

「それは天王さえも持てない力だと―――」

「宇宙の真理を見つめ、その真理を自在に動かす」

「恐ろしい力にもなりえるって」

「でも正直、そんな話はどうでもよかったんだけど――――」

 

 

 

天上界が下界に行くというのは、通常二通りの道がある。

 

一つ、天界の掟を破り、追放された場合。

二つ、神に遣わされた場合。

 

 

 

だが、何の用もなく、天上界の人々が下界に降りる事は許されない。

もしできるとしても、それには大量のエネルギーが必要なのだ。

 

 

だがカバジの目を見てしっかりと喋るアトベは、どうやら本気のようだ。

 

まさかそんな力が、とカバジは思ったが、そういえば時折アトベの目が淡い光を放つことがあるのを思い出した。

この天上界、なにかしら能力があるのは間違いないが、アトベは基本的に万能なので、それ以上の力を秘めているとは思えなかったのだ。

だが、もしかししたら、本当にそんな力が。

 

 

カバジはアトベの言う事を全て信じてきた。

そして今でさえ、信じようとしている。

 

だが、そうしたことで一つの考えがカバジの頭に浮かんだ。

 

 

「―――な、ら、アトベさん、だけでも―――」

 

どうか、この世界を離れて。

 

 

そう言ったカバジは、数秒後、見事に吹っ飛んだ。

 

 

 

 

頬が痛い、と仰向けになった状態でのんびりと考えた。

頭がガンガンするのは、突然衝撃を与えられたからかもしれない。

殴られた、と気付いたのは直ぐだった。

 

ぐ、と詰まった息をようやく吐き出したところで、カバジは、自身の上にアトベが跨っているのが見えた。

 

 

 

「ア、トベ、さん…」

 

 

 

そして、声をかけて顔を見る。

 

 

―――――と、カバジは言葉を失った。

 

 

 

(泣いている)

 

 

 

 

 

―――――あの、屈強な魂を持つ自尊心の高い彼女が。

 

カバジの光が。

 

 

 

 

「…っ、んで…!」

 

 

 

悔しそうに、悲しそうに顔をゆがめて。

 

大粒の雫を、雨のようにカバジに降らせて―――

 

 

 

「下界なんか、誰が、好き好んでいくものか!そんなんだったら、星にでもなった方、が、マシに決まってんだろ!!!」

「―――、」

「でも、一年に、一回なん、て、待てないっ、から、っ、!」

「…ア、ト」

「お前とならどこにいったって、」

 

 

 

 

それでも、いいと――――

 

 

 

 

 

紡がれないアトベの声が聞こえた気がして、カバジはアトベの頬にそっと指を這わせる。

ピク、とアトベの肩が揺れて、瞳が合う。

 

 

(ああ、アトベ、さんの)

 

 

 

 

 

(綺麗な、目が、)

 

 

 

 

――――――真っ直ぐ、見つめて、導く。

 

 

 

 

 

 

 

 

初めて出会った時。

落ちてくる目に、惹かれた。

 

次に会った時。

桃の花のように色づいた顔を、可愛いと思った。

 

結婚した時。

震える肩を抱き締めて、一生守ろうと思った。

 

 

 

 

出会ってから今まで、彼女は自分の道しるべだった。

 

 

 

そして、多分、これからも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なら、自分も、」

「…!」

「連れてって、ください」

 

 

 

 

 

 

 

 

怖い事は何もない。

 

 

 

彼女についていくのなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――っ、好き、だ」

 

 

そう呟いて、彼女の眼はフワリと光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+  +  +

 

 

 

 

 

「あー、やっぱりね…」

「なっなっなっ…!!!!」

 

 

 

天を揺るがすほどの轟音がしたかと思えば、天宮の東塔が跡形もなくなっていた。

人々の喧噪のなかで、それでもタキは一人、ふうと息をついた。

 

「タ、タキさん、そんな落ち着いている場合じゃなくて、皇女が居なくなられたんですよ!」

「良いんじゃない、自分から行ったんだから」

「な、って、自分から…!?」

「…うん」

 

 

離れるなんて考えられなくて、一緒に堕ちたのだろう。

 

血気盛んな彼女らしい選択と言えばその通りだ。

むしろ、どこかでこうなるんじゃないかと、思ってはいた。

 

 

「――――会おうね、また、後の世で」

 

 

まるで親愛なる友人に向けるように下界を見つめて呟くタキを、ヒヨシは何も言わずに見詰めていた。

 

 

 

 

 

(どうか、また後の世で)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+  +  +

 

 

 

 

 

 

さーさーのーはー

さーらさらー

のきーばーに ゆーれーるー

 

 

 

 

歌いながら変える子供たちとすれ違って、跡部は思わず歩みを止めた。

 

七夕が近付くと必ず歌われるその歌は、夜空に輝く二つの星に対してのものだ。

 

 

フ、と少しだけ笑うと、それを聞き取ったのか樺地が問いかけた。

 

「あ、とべ、さん?」

 

 

ゆっくり喋る口調も、大きな体も、たくましい腕すら、樺地は何も変わってはいない。

 

 

「――――七夕だ。」

 

跡部はそれだけ言うと、今はまだ茜色の空を見上げた。

それでなくとも、時代のせいで星はうまく見えないのだが。

 

「…ウス」

 

そしてその跡部の言葉に、樺地は静かに頷いた。

まるで、すべてを察したかのように。

 

 

 

 

「…まさか、男になるとは思ってなかったが、な」

 

 

元々男の気があったかもしれない。

むしろ女であるという方が、無理だったのだ。

じっと手を見つめてぽそりと呟く跡部に、樺地は答える。

 

 

「で、も、」

「うん?」

「何も、変わってません」

「…」

 

 

真摯な瞳をした樺地の目を、跡部は同じくらいの真剣さで、見つめ返した。

 

 

 

「あの、初めて出会った時から」

 

―――初めて、抱きとめられた時から、

 

 

「跡部さんは変わらなくて」

 

―――何も、変わらずに

 

「ずっと、昔も、これからも、」

 

―――それは多分、永遠に、

 

「俺の全て、です」

 

―――『私』の全てである、と。

 

 

 

 

 

「バー、カ」

 

 

言葉が詰まったのは、照れたからじゃない、と跡部は心中で言い訳をした。

 

 

「お前、本当に変わらねえな」

「ウ…」

「言っとくけど、悪いって意味じゃねえぞ」

 

 

そう、ずっと変わらず。

 

 

純粋な光はそのままで。

 

 

 

「―――『好きだ』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、小さな下界の片隅で、

 

 

 

 

永久の誓いをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(君は運命の鎖を持って)()


(僕にそっと絡めるんだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

|ごっ、ごっ、ごめんなさい……!!の懺悔室|

 

 

 

 

 

 

ほんとうっ、に!

すみませんでした。

 

 

ここでいくつかの解説のような言い訳を少し。

 

 

先ず、七夕ネタだったわけですが、天上界における描写のあまりに貧弱な事をお許しください。

イメージは、古代中国です。いえ、あの、そう見えませんでしたよね申し訳ありません。

 

さて、なぜ跡部が乙部なのか。

それは、つまり、この話のテーマを、書くときに『永久の愛』、と言う風に定めたことが気っかけでした。

二人の絆をより強くするために、「どんな形になっても跡部を愛する樺地」ということを念頭に置いて、樺地は跡部が女だろうと男だろうと関係ない、みたいな…話にですね…ええ、全然伝えることができず、本当に申し訳ないのですが…!

 

最初ギャグテイストでした。

壊れた跡部と、振り回されるメンバー。

ただ、書いてるうちに妙に童話に振り回されてしまい…

意外とシリアスなんですよね、あの話…

そんな事やってたら短編で終らなくなり、そして無理に終わらせようとしたので、なんか話が突飛になってしまったのです。

もっとこう…跡部と樺地がくっつく過程とか、跡部がヘマしたところとか、もっと丁寧に書きたかったのですが…!途中の結婚初夜とか特n←

 

さらにもっと言えば、樺地が、3歳の時点で4歳の跡部についていくなんて、教育学のなかでも絶対にあり得ないと思ったので、

勝手にこう…奴らは前世からのつながりがあったんだぜ!

的な話が書きたかったんです…

 

 

ああああああ、もっと、こう、なんだろう…!

 

カッコよくてそれでもやっぱり可愛い、さらに言えば跡部と樺地がお互いがお互いなしでは生きていけない、みたいな樺跡が書きたいんですけど…!

無理ですね……

 

 

おまけになんだこの文章力とグダグダ感。

 

本当に、一度はやってみたかったという作者の欲望をさらしてしまいすみませんでした…!

 

 

 

も、もう二度と!

二度とやりませんから!!!!!!

 

 

(にょたはやるかもですg←滅べ)

 

 

こ、ここまで読んでくださり、

 

 

 

ほ、本当に申し訳ありませんでした&ありがとうございましたあああああああっっっっ!!!!