樺地があんなふうに跡部に尽くすのは、きっと樺地が跡部を好きだからだ
誰に聞いたわけでもないけれど、ジローは唯そう思った。
それはつまり、頭で考えて出した結論出なくて、何時も樺地に背負われて誰よりも二人の近くに居るジローならではの、第六感に基づく結論だったと言ってもいい。
「かばじ…樺地はほんとーに、跡部がスキなんだねえ」
だからある日、思いがけず聞いてみたのだ。
なぜかって言われたら、跡部を見る樺地の瞳が、どこまでも優しかったから。
けれど樺地は、少し驚いたような表情をジローに見せると、(樺地はめったに驚かない)
少しさびしそうに、こう言った。
「…いいえ」
今度はジローが、驚く番だった。
(かばじ、ウソツキ、だ)
ああでも、ウソの理由を知っている、とジローは微睡むような目で空を仰ぐ。
―――――樺地は、跡部がスキ。
―――――跡部は、樺地がスキ。
―――――でもその『スキ』が、重なることを恐れてるんだ
(踏み出したいようでいて、踏み出した後に変わってしまう自分たちを恐れている)
「かばじー…」
「…ウス」
(残酷だね、お前も跡部も)
「…何でもない、膝貸して」
「ウス」
(祈ってるよ、いつの日か)
(常識も何もかもを飛び越えて、お前らが勝ち続けるのを)
「…芥川さん、ありがとう、ござい…ます」
意識が落ちる直前、耳に届いた小さな声を、
ジローは悲しい空に閉じ込めるように、目を閉じた
|後記|
ジローは、なんでも知ってると思う