「――――!樺地、どうしたんだよソレ!!!!」

 

 

 

 これから部活も始まろうという時間だった。二年生は用意のため更衣室を去った後だったが、委員会のせいで遅れたらしい樺地は、三年生たちが談話してる雰囲気の中一人ひっそりと着替えていたのだ。そして、もう少しで召集がかかるだろうと思いつつも三年は馬鹿騒ぎをしており、お世辞にも穏やかとは言えない更衣室の雰囲気であったのだが、ソレを破ったのは、いつの間にか着替え終わっていた樺地をお驚かせてやろう、と背後に忍び寄っていた宍戸の叫びだった。

 ただ事ならぬ気配に誰もがそちらに目を向ける。だが凄惨な表情を浮かべる宍戸の前に血の気が引いたような樺地が見えるだけで、それ以外に異常な事はなく、誰もが疑問を感じていると、樺地が慌てたように口を開いた。

 

 「なんでも、ない…です、から」

 「なんでもないって…!シャツの中、それ…!」

 

 ボクサーも驚きの俊敏さで、ぐい、と宍戸は樺地のジャージを引っ張ると、あまりに速い宍戸の動きに樺地も咄嗟の抵抗ができず背中が露わになる。

 と、メンバー全員がひゅうっと喉を鳴らした。

 

 

 「樺地、それ…!」

 

 

 広い樺地の背中に、痛々しく映る数多の打撲痕。

 それだけではい、袈裟がけに裂傷のようなものも見える。傷は浅いようだが、褐色の肌に鮮烈に映えるソレはメンバーを驚かすには十分すぎるほどだった。

 

 本気で焦ったらしい樺地が宍戸の手をはがし身だしなみを整えるも、当然黙っていられるレギュラー陣ではなく。

 

 「おい、どうしたんだソレ!転んでできたって傷じゃねえだろどう見ても!!」

 

 そういう宍戸を皮切りに、向日も続く。

 

 「そうだぜ樺地!何があったんだよ!?」

 

 だが樺地は緩く首を振ると、「階段から落ちて、すこしひどくなっただけ、ですから…」というとラケットとタオルを用意し始めた。だがそんな樺地を遮るように忍足は彼の手を握ると、低い声で一言放った。

 

 「跡部は知ってるんか?」

 「!あと、べさんには…!」

 

 途端、急に焦ったように忍足を見る黒い瞳を真摯に見つめ返して、忍足は口を開く。

 

 「―――跡部が関係してるんと、ちゃうんか?」

 「…!」

 「直接的でなくても、間接的に」

 

 そこまで言うと、樺地はすっかり口を閉ざしてしまった。そんな樺地の様子に忍足は確信したとでも言うように樺地の手を強く握る。

 けれど腑に落ちない様子の向日は、忍足に問いかけた。

 

 「どういうことだよ、侑士?お前なんか知ってんのか?」

 「…おん」

 「違い、ます!」

 

 けれど樺地は勢いよく顔をあげると、やんわり忍足の手を払った。

 

 「すみません、変なもの見せて…でも、本当に、落ちただけで…跡部さんには、言わないでください」

 「せやかて、樺地」

 「忍足さん」

 

 睨む、というよりむしろ殺意のこもった眼で射抜かれて忍足は一瞬言葉に詰まる。

 緊張の一瞬を解いたのは樺地だった。

 そのままタオルとラケットを握ったまま、立ち上がり、二年生たちの居るコートの方へ歩いていく。

 

 「樺地!」

 

 咄嗟に叫んだ向日の言葉に樺地は一瞬ぴたと足を止めたが、樺地は、すみません、と一言残し

、ドアを開けて出て行った。

 

 

 だがあとに残された面々は重い空気のまま立ちすくむ。

 

 そして、忍足がふぅ、と息を吐くと、ガチャ、と入口のドアが開いた。

 その場にいた誰もが反射的にドアの方を見ると、逆にドアを開けたその男は、そんなメンバーに対して訝しげに眉をひそめた。

 

 

 

 

 「……どうしたお前ら、やけに落ちてんじゃねぇか」

 

 

 

 

 跡部である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…や、なんでもね」

 

 少し考えた風を見せた後、宍戸はそう言った。

 何があったにせよ、樺地があれほど必死で隠したのなら、何か理由があるのだろう。

 ならば、自分はその気持ちをくみ取ってやるしかない。

 なによりも後輩重視な宍戸らしいその結論は、けれどその次の瞬間見事に覆された。

 

 

 「…樺地の背中に、殴られたような痕があってんねんけど」

 

 

 ガツン、と殴られたような衝撃を一同が襲った。

 静かに切り出した忍足に、誰もが一瞬動作を止め、そして一斉に非難交じりの―――けれど、それとはまた対照的な思いも含めた複雑な―――眼を向ける。

 対して跡部は、虚を突かれたように忍足を見た。

 

 「…樺地の?」

 その言葉はメンバーが思ったより冷静で、忍足は事態を詳しく話していく。

 

 「樺地は、お前に話すなてゆうたわ。ただ階段から落ちたんやて、」

 「ゆーし!」

 

 それ以上は流石にまずいのではないかと察した向日が声を荒げるも、制するような忍足の手に声を失くした。

 

 「けど俺は、あんなん階段から落ちてできる傷やないってのも知ってるし、大体、肩からわき腹までの裂傷もあってんけど、あんなん意図的でないとでけへん傷や」

 「…それで、どうして俺だ?」

 

 だが未だ静かに腰を据える跡部の態度に、とうとう忍足が痺れを切らす。

 

 「とぼけんなや!お前かて分かってるやろ!?お前にいつも憧れとる子が、いつも傍に居る樺地に妬いてる事かて、気づいとって、それでもそないな態度取れるん!?」

 

 それでなくても、樺地はお前の幼馴染やないか。

 その言葉だけは、忍足は唇を噛んで飲み込んだ。

 信じられなかった。これだけの可能性を提示されて、そして幼馴染が傷ついていることも知って、それでもなお平静でいられるこの男の神経が分からなかった。

 

 だというのに、そんな忍足の怒りを知ってか知らずか、跡部は何だ、そんなことかとでもいうかのようにはぁ、と息を吐いた。

 

 「―――そんなことぐらい分かってる。で?」

 「……で、て…」

 「そいつらが樺地に妬いて、普段ぶつけられねえ鬱憤見たいなのをアイツにぶつけた結果、そうなったとでも言うのか?」

 

 忍足はそう確信していた。

 以前にも、樺地が脅迫まがいの言葉を受けている場面に忍足は遭遇したことがあるのだ。その時は忍足が偶然樺地を見かけたように入って行ったから良かったようなものの、あのままだと危害を加えられていたかもしれない。

 そして、先ほどの質問に対する樺地の態度が全ての答えであるような気がした。

 跡部が間接的にかかわってるとしたら、樺地は迷惑をかけられない。

 忍足はそんな風に考えると事自体間違っているような気がするが、長年跡部と一緒に居て培われてきた何某かが樺地をそう考え込ませるのかもしれない。

 

 だが押し黙ってしまった忍足に跡部はハッ、と軽く笑った。

 

 「考えすぎじゃねえのか?大体、本当にお前の言う通りだったとしても、だ。どうしてあいつが抵抗しねえ?別に抵抗できない程か弱い体持ってるわけじゃねえんだ。話が通らねえだろうが。」

 

 体を持っていても、樺地のように自分を卑下する精神を持っている者に、抵抗ができたとは思えない。

 むしろ屈強な体を持っている自分だから、どんなにされても平気だとかやせ我慢を考えていたような気もする。

 

 だがそこまで考えがいきわたっても、忍足は口を開くことができなかった。

 

 跡部がそこまで、薄情な人間だとは思っていなかったのだ。

 

 「ったく下らねえ。お前らそんな事に頭使ってる暇があんなら、練習しろ練習。そろそろ召集かけるぞ、その前にウォーミングでもしてろ」

 

 

 何かを言いたそうにしている面々も、けれど口を閉じる。

 跡部に言われると、なんだかそういうような気もしてくるから不思議だ。

 確かに話は通らない。けれど樺地のあの痛々しい背中を思い出しては、跡部の態度の冷たさにどこか煮え切らないものが残る。

 そんな曖昧な感情のまま、メンバーはコートへと向かった。

 

 「ゆーし…」

 

 けれどそんな中未だ動かずにいる忍足を、向日が気遣うように声掛ける。

 すると忍足はそんな向日に応えるように曖昧に答えると、ラケットを持ってドアに向かった。

 

 そして出ていく直前、未だ着替えている跡部の背中に、忍足は小さく吐いた。

 

 「…お前がそんなに、冷たい奴とは思わんかったわ」

 

 だがそんな忍足の言葉を受けても、跡部は平然と着替えていた。

 届かなかったのか聞こえないふりか。

 どちらにしても忌々しい、と忍足は若干力を込めてドアを閉めた。

 

 

 バタン、という音を受けて跡部が其方をチラリと横目で見たのを、誰も知る者はいない。

 

 

 

 

 

 

+  +  +

 

 

 

 

 

 

 そんな事があった翌朝、向日は見慣れた背中を見つけて、走り寄った。

 

 「ゆーし!おはよっ!!」

 「うおっ!?」

 

 走りよるだけに留まらず跳びかかってきた向日にバランスを失った忍足は、声の主を判別すると、困ったように少しだけ笑った。

 

 「おい岳人!何すんねん、朝から地面と友達になるとこやったやん!」

 「わりーわりー!にしても侑士、んな陰気クセー顔で歩いていると幸せ逃げるぜ?」

 「陰気て…」

 

 あれから色々考えていた忍足は、自己嫌悪やら跡部の態度の不可解さなどのために中々寝付けなかったのだ。眼前で飛び跳ねる桃髪の親友はどう思ったのだろうかと忍足がチラリと気にすると

、まるでそれを読み取ったかのように向日は声をひそめて忍足に問いかけた。

 

 「…な、結局…樺地のあの傷って、なんだと思う?」

 

 少しドキリとしながらも忍足は向日の言葉に慎重に口を開く。

 

 「…分からんわ。そもそも、樺地がああ言い張ってる内は…俺らは下手に手出しせんほうがええと思う」

 「…。じゃあ、俺らは何もできない…ってことか?」

 「まあ、言い方変えたらそういう事になるわ。何するにも、樺地が言わな…」

 

 だから本当なら、跡部に動いてもらうのが早そうだと忍足は踏んでいたのだったが、跡部があの調子ではそれは望めそうにもなかった。

 だが忍足の言葉を聞いて落ち込んでしまった向日を見て、忍足はあわてて口を開いた。

 

 「けど、次なんかあったら、その時は無理にでも樺地に吐かせようや。もし本当やったら、ほっとけんのやし」

 

 すると、そんな忍足の言葉に何を思ったのか、向日は忍足の顔を見上げてしばし考え込んだのち、決心したように笑った。

 

 「そーだな!うん、跡部なんかに頼んねえ!俺、絶対樺地を痛い目になんか遭わせねー!!」

 「…ん。せやな」

 

 いつもの調子が戻った向日に柔らかく微笑むと、忍足は他愛もない話でも始めようかと口を開く。

 

 と、忍足が言葉を発する前に、幾分高い声が向日を呼んだ。

 

 「岳人ー!おはよー!!」

 

 向日が振り返って、おーと適当に返す様子を見ると知りあいの女子なのだろう。忍足はたまに「これクラスメイトの〜」など向日から紹介されることもあるが、何せ向日の友達は無限大とも思われるほど多いので、覚えたためしがない。というまえに、向日からも「あれっ…あいつ前に紹介したっけ?」といわれるほどなので、いちいち把握はしていないのだろう。

 そんな向日の友達だか知り合いだからは分からないが、向日が声をかけられることには慣れているので、忍足は傍で黙っていることにした。

 と、忍足が見えているのかいないのか、彼女は「そういえば、」といって話を切り出してきた。

 

 「ね、ね、昨日メール回ってきたー?」

 「メール?どんな?」

 「隣のクラスのマキとユッキー、昨日野犬に襲われたらしいよ?」

 「…え…マジで!?」

 

 なんとも朝から不穏な話題が聞こえてきて、思わず忍足も耳を寄せる。と、女子はそんな忍足にも構わず喋り続けた。

 

 「なんかー、学校からの帰り道で突然。保健所から脱走したとかって話なんだけど、保健所の方は脱走したって話出てないんだって。ちょー怖くない?」

 「え…で、マキとユッキーは?」

 「んー、指やられたとか…かまれた場所が悪かったとか・・・色々あるらしいけど、よくわかんない。でもショックで喋れないらしくて、入院中。で、噂だけど全治3週間」

 「ゆ、指!?」

 

 向日が青ざめた様子で反復するが、忍足も心中穏やかでなかった。

 帰りがけにいきなり犬に襲われて、それも指を持っていかれたら自分もショックで喋れないかもしれない。空恐ろしい話だ。

 

 「えっ、で、その犬どーなったんだよ!」

 「ホント分かんないんだって!そもそも、犬かどーかも実は良く分かってないって話」

 「へ?何だそれ」

 「なんか…目撃証言が犬見たってだけの話で、あとは二人がヒドイ怪我で倒れてたってことぐらい。」

 「へー…」

 「でも本当は、犬じゃないかもねー」

 「ええ?」

 

 噂ばかりでずいぶんつかみどころのない話だな、と思っていると、彼女は含みのある顔でそんな言葉を向日に振った。

 

 「だってマキとユッキーって言ったらさ。ホラ、もう熱狂的な跡部狂だったじゃん?」

 「え?そうだったっけ?」

 「そうだよー。ま、岳人は知らないかもだけど。でもそのせいで結構周り見えなくなってて、秘蔵写真とか、万引きしてまで金作って入手したって噂があるくらい、結構なんでもやってたみたいだし?」

 「…マジで?」

 「うーん、ま、噂の全部がホントってわけじゃないと思うけど。でも、ウチの友達は、テニスの試合見に行った時はしゃいでたら、二人にガン付けられて罵られたって。それでもうあの二人はちょっと…った感じだったけど。」

 「へー…あんまそんな感じに見えなかったけどな」

 「ま、普段はいいんだけどさ。跡部さんのことになるともう?みたいな?ま、そんな感じで、誰も二人の見舞いに行かないって。」

 「誰も!?」

 「んー…多分ね。やっぱちょっと仲のいい友達もいなかったらしいし…それに、さ。」

 

 

 結構、見るに堪えない姿になってる、って言われたら、ね。

 そういう彼女は申し訳なさそうにしながらも、どこか自業自得だろう、という雰囲気をにおわせてるように感じた。

 

 「ふーん…ま、でもやっぱ可哀想だよな」

 「まあ、そりゃあね。あ、じゃあ私もう行くわ!お話じゃましちゃってごめんなさーい!」

 

 忍足は自分に振られたと気付いて、曖昧に返した。

 

 「あ、いや、ええよ」

 

 何か、引っかかる。

 何がといわれたら言葉にはできないが、胸に靄がかかったように、何かが不明瞭だ。

 

 「なーんか、怖ぇ話だったな、ゆーし…ゆーし?」

 

 

 被害者は、跡部のファン。

 それも熱狂的な。

 ―――そもそも、昨夜の事件にしては情報が早く回りすぎていないか?

 

 犬かもしれない、容疑者。

 けれど、本当の容疑者は―――――?

 

 

 

 

 

 「なぁに朝からしけた面してやがる」

 

 

 

 

 

 そう言われて振り返った忍足は、確信した。

 

 

 

 

 

 「―――――――跡部」

 

 

 

 

 

 

 この男が、犯人だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

|あとがき|

 

 

 

ちょっと待ってください。

 

真剣に読んじゃいけないですよコレ雰囲気でサラーっと読んで雰囲気で終わらせますからね←

 

 

突発短編なんで、ぶっちゃけ最後考えてませんでし

 

というわけで迷探偵!忍足君に(コラ)

犯人を暴いてもらう…という結果でね。

 

何で忍足は分かったんでしょうかね…

跡部の顔に返り血でもベッタリくっついてたんでしょうかね…(あwwwwりwwwwえwwwwんwwww)

 

 

まあつまり、

 

樺地いじめられる

跡部ブチぎれる

跡部、加害者を殺s←

翌日涼しい顔で登校

 

 

みたいな、ね!(ねではない)

 

 

そういうのが書きたかっただけ!

 

ちなみに樺地が跡部さんに黙っててーゆうたんは、アレですね。

跡部が犯人やっちゃうからですね←

 

どうやって犯人見つけんのか分からないですけどね(ちょ)

 

とりあえずべさまは隠そうとする樺地にもキレるんじゃないですかね。

 

 

 

 

 

あのー…なんかオチも文章も微妙な短編でしたが…

 

 

 

 

ほんっとう!

 

すみませんでしたああああああああっ!!!!!!

 

 

 

 

 

|完|