※この話は『限りなく透明に近い想い』の続きです。
よろしければ。
「忘れて、ください」
と、奴はまたしても唐突に
「ご迷惑は、おかけしません、から、」
と
言ったのだ。
―――――ならお前は忘れられるのか。
この痛みも、この苦しさも。
色づく透明
強い舌打ち共に、ダスン、という重い音が広大な部屋に響き渡った。
跡部家が誇る豪邸の一室、跡部景吾の部屋である。
――――――忘れてください、って何だ!
苛立たしげに放り投げた鞄には目もくれず、長さ4mのソファに腰掛ける。ぶっきらぼうに髪をかきあげて、跡部は眼を閉じた。
昨日突然告白してきた幼馴染が、今日になって、突然『忘れてくれ』と言い出した。
それは朝、跡部がまさに出発しようという時である。一人のメイドが突然『景吾様、樺地様がいらっしゃってますが』と言ってきたのだ。
告白を受けてから、自分が樺地を避けているという感覚は跡部にもあった。
会うのがきまずくなるというのは樺地相手には初めてで、どうしてそんなことを思うのかと自問してみても行き着くのは、結局自分が樺地をそういう対象として見れないからに他ならない。
もしかしたら返事を請いに来たのかもしれないと思うと、そういう結論を出した後に会うのはどうにも気まずかった。だが事情を知らない跡部家の召使たちに、今まで傍に置いてきた樺地を追い返すのを命じれば、すぐになにかあったと察するだろう。有能な人材ばかりを揃えた自分を少しだけ恨めしく感じるも、とりあえず気取られないためには樺地に会わねばなるまい。
適当な理由をつけて逃げるよりは、いっそ告白の返事を叩きつけてしまうか、と跡部が意気込んで樺地に会えば、樺地が発した言葉がなんと『忘れて下さい』だったのだ。
呆然とする跡部に他に何を言うでもなく、樺地はそれだけ言うと『では』と言って去って行った。
それから一日、跡部が樺地に会うことはなかった。
――――そして現在に至る。
口では何とも言えるよな、後悔してたのかもしんねえし、なら最初から言うなよ…と数々の言葉が跡部の脳裏をよぎるも、結局跡部に残されているのは苛立ちだけだった。
部活のない日でよかった。そう思うしかない。これで部活があったなら自分はどんなに心乱れていただろうかと思うとそれだけで肝の冷える思いだった。自分は常に生徒会長としても部長としても注目されているのだ。
高等部に入ってから一層、跡部は周囲の目を気にし始めた。要するに、ファンが増えたのだ。気がつけば他の高校の生徒が混じっていることもある。厄介ではあるがいつも悪い気分はしていなかった。ただ今日もし部活があったなら最悪のコンディションであっただろう。それを見られるのは苦痛以外の何物でもなかった。
明日。明日になれば忘れられる。そしてまた樺地を連れて以前のように戻れる日がきっと来る。
長い人生では一日なんて些細なものだ。時間がすべてを解決することを跡部は知っていた。
そして今悩んでいることなど10年後には些細な出来事でしかないのだと。
そうやって信じるしか今は方法がなかった。このわだかまりを何とか嚥下するには、時間という力を借りなければやっていけないのだ。
跡部はソファに横たわった。軽く眠れば忘れられる。
とにかく明日になれば、とそれだけを思い目を閉じた。
―――――ただし、跡部はそんな自分の考えが甘かったことを、後に知ることになる。
+ + +
「気合いが足んねえぞ!次!!!」
地面にめり込むのではないかと思うほどボールが地面に強く打ちこまれると、跡部の怒号がコート中に響き渡った。それまで対戦していた相手は真っ青になって立ち尽くすと、我にかえって何も言わずにフラフラしながら走り去る。よく見ると鳥肌が立っているのだが、部長の全力と対峙したのだから当然の反応ともいえた。それに加え、跡部は苛立っている。
部活が始まるなりいきなり、レギュラーじゃないメンバーを呼び出して片っ端から一人ずつ試合をしていくと言い出した跡部は、素人相手にも容赦なく本気で試合を始めた。
最初はこんな大人数を一人でなんて無茶だ、と侮っていた部員たちも、一人、一人と短時間で次々に減らされ、さらには一人倒すごとに強くなっていく跡部の強さに、次第に顔を青くしていった。
コート上の鬼。まさに、今跡部はそのものだった。
前の試合を見ていて完全に四肢が動かなくなっている部員が、それでも跡部ににらまれなんとかコート上に足を踏み入れた時、焦ったような制止の声がかかった。
「跡部!もう無茶や、やめとき!」
隣のレギュラーコートから成り行きを見守っていた忍足だった。そしてそれに向日も続く。
「そうだぜ!さっきからお前、一回も休んでねえだろ!?」
部員達にとってみればまるで天の声だ。だが、跡部にとってみれば突然の妨害は腹立たしい物以外の何物でもないらしい。
「…うっせえ。なんだよ」
跡部のアイスブルーの瞳がすうっと細められた。
長いとはいえないまでもそれなりに付き合ってきた忍足たちではあるが、今の跡部の瞳はそんな忍足たちを圧倒するような力を湛えて、その瞳はギラリと光る。
「…な、んや、て…お前、ほんま大丈夫か?」
なんとか気押されないようにと、氷のように凍てついた跡部の瞳に対抗しつつ忍足は答えた。
その答えに跡部は解せないとでも言うようにさらに目を細める。
「…何が」
「何って、お前、」
言いづらそうに、向日はもごもごと口を動かした。
「…顔、」
「…顔?」
跡部が反復する。向日は目をそらして、答えた。
「……ひでぇぞ」
――――何、と言おうとして跡部は口を開いた。
だがそこで、自分を見る部員たちの顔を見渡す。
恐怖と、不安と、そして一部の懸念。
――――やってしまった、
恐れていたことだ。自分の内に渦巻く昏いもの。それを顕わにするのは自分の矜持が許さなかったのに――――
跡部はそれだけ思うと、髪をかきあげてさも苛立たしげな様子で舌打ちをした。
「――――20分休憩だ!ここに集合すること!」
はい!と何時になく大きく響く部員たちの声を聞きながら、跡部は足早にコートを後にした。
+ + +
火照った顔に当たる冷たい水の感覚が心地よくて、しばらく跡部は蛇口を緩めていた。
少し髪も濡れたというところで、蛇口を捻って水を止める。ぷは、と酸素を求めて顔を上げた時に、自分がタオルを持ってないことに気づいた。
「おい樺…」
そしてそこで気付いた。樺地はいないのだ。
今日は一回も姿を見ていない。本当に消えてしまったのではないかというように。影すら見つからなかった。
なんということだ、と跡部は思った。居る筈がないのに、どうしてタオルを持ってこなかったのか。
――――忘れてください
あの時の樺地の声が脳内でリフレインする。
忘れる。何を。あいつの言葉を。
(…なら言わなきゃよかったじゃねえか)
忘れるも忘れないも、跡部は自分の好きにするつもりだった。向こうが忘れてくれというのだから、これ以上好都合な展開はないはずだ。現に今までも、ラブレターなどを渡すだけ渡して帰っていく女子を追うような事などしなかった。それを引きずってしまっているのだ。調子が狂う。
(変に距離が近かったからな…今までと違って、顔も知らねえ、ってことでもねえし)
そう、相手は十年以上もともにいた幼馴染名なのだ。告白されて、はいそうですかと忘れ去るなんて、男女間ですら上手くいかないことだろう。
ただ、跡部が一番不思議なのが―――自分が樺地に困惑よりも、怒りを抱いていることだった。
勿論、誰だって勝手に告白され、勝手に忘れろと言われれば怒りもするだろう。
それを引きずりもする―――…否、本当に一般的にも感じるのだろうか?
怒っている、それは自覚がある。
けど何か違う感情が心のどこかでつっかえている気がする。それを意識した途端に、何故だか上手く呼吸ができなくなるのだ。
(どうして、こんな、)
探ろうと思えば頭が混乱して上手くいかない。何か言葉が出るのではないかと口を開ければ、嗚咽が出そうになる。
金茶の髪を伝って滴が一つ、また一つと水飲み場の排水溝に消えていく様を見ながら、跡部はそっと空気を揺らすため息をついた。
と。
「タオル、いる?」
突然かけられた声に、跡部は驚いて顔をあげる。
振り向いた方向には、優しそうな微笑みを浮かべて跡部にタオルを差し出す滝の姿があった。
普通の人間ならばその綺麗な笑みに思わず自身の頬も緩め、感謝の意を述べてタオルを受け取る事だろう。
だが滝の性格を把握している跡部は、普段なら機嫌の悪い自分のところに近付くなどというある意味愚かな行為を、その場の空気を読むことにたけている滝がする事は不思議に思えた。
それに、滝が艶然と微笑んでいる時は何か腹に一物抱えている時なのだ。
「……何考えてる」
表情からは感情の読み取れない滝を眉をよせて睨みながら、跡部は問うた。
するとそんな跡部の言葉にも眉ひとつ動かさず、滝は花が咲いたように笑う。ただし、跡部にとってみればそれはさながらブリザードフラワーにしか見えなかったが。
「何って?僕はただタオル渡しに来ただけなんだけど」
「他の奴に渡せばよかっただろう」
暗に、お前が動くほどの何かがあるのかと問うてみる。
「他の奴、って、他はみんな今日の跡部に怖がって誰も動いてくれないよ。宍戸でさえ今日は言葉少なだし。」
なにも宍戸が普段は口喧しいということを滝が示唆しているのではないことぐらい、跡部には分かっている。
穴戸は誰よりも血気盛んで、上から見れば、上の言う事が少しでも違っていれば黙っていられないというぐらい喧嘩っ早い只の生意気な後輩にしか映らないが、後輩にとってみればとても頼りがいのある兄貴分へと変化する。
そしてその気質から、何かと下を気遣っては声をかけ、元気づける。士気を奮い立たせているのだ。
だがそんな宍戸も今日は静かに成り行きを見守っていた。何かと気にかける下の存在が居なくなってからこの半年ほどあまり言葉を発してはいなかったが、今日は一段と静かだった。おそらく跡部の異変に気付いて、触らぬ神になんとやら、と思ったのかもしれない。跡部を諌めるために喧嘩を売らなかったのは、彼にしては賢い選択と言えた。
「ハッ、それで何だ?忍足たちのように止めに来たのか?」
そこまで聞けばほかに用事があるとは思えなかった。滝はテニスは決して強くはないが、良く気が回るためか選手のコンディションを整える能力―――サポートにとても長けている。先ほどのような試合では選手のベストを引き出すことなどできないと言うつもりなのかもしれない。
跡部にしてみれば、相手の気迫に押されてベストが尽くせないということは、永遠に立海や青学には勝てないというのが本音ではあるのだが。
だが、滝が次に発した言葉は、跡部をまさに驚かせることだった。
「止めに?何で?こういう時でもないと自分達の実力って分からないんだから、丁度良い機会なんじゃない?」
跡部は目を見開いて、滝を見つめた。滝は未だに柔らかな微笑みを浮かべていて、真意がつかめない。と、何か柔らかなものが跡部の顔に当たる。それがタオルだと跡部が認識するまでに、そう時間はかからなかった。
「僕が言いたいのはね、跡部」
すっかり塞がれた視界の向こうで、驚くほどひんやりとした声が聞こえる。
「そうやって自分で道を絶って、溜まった不満とかをこっちにぶつけないで欲しいってことなんだよ」
その言葉に、跡部は自分の肝が冷えるのを感じた。
直感的に、見透かされている、と跡部は思った。だが、見透かされているという事は、自分が感じているのは不満だったのだろうかと跡部は考えた。
怒りを感じているとは思っていた。そしてどこか胸の奥でつっかえているもの。
それは、不満なのだろうか。
「おかしいと思わなかったの?普通男から告白されて、気持ち悪い、とか思わない?特にあえて他人に気遣わない跡部ならなおさら、その場で振ったってよかったはずじゃない」
「俺、は」
「まだいいよ、跡部。無理に答えを出さなくて…でも、その内に本当に自滅するよ」
タオルを顔からどけて滝の顔を見れば、もう笑みを浮かべてはいなかった。
それどころか何時も感情の伺えない瞳からは敵意すら察せられる。
何、と跡部が言おうとしたところで、滝は吐き捨てるように言った。
「――――自分の気持ち、早く気付かないならね」
氷のような声が胸を軋ませたように感じたのは、恐らく錯覚ではない。
+ + +
(…分からねえ)
昨日の滝の言葉を脳内で反芻しながら、跡部は高くなったように感じる秋の空に、悠々と流れていく雲の動きを見ていた。
短い休み時間でさえ必要があればわざわざ中等部から顔を見せていた幼馴染の顔を見なくなって、もう二日目なのだと思った。そして意外にもそのことを考えるだけで、胸がざらつくような気分になるのだ。
自分の気持ち。滝がどうしてあんな事を言ったのかが、跡部には分からなかった。
どの事を差しているかは一目瞭然だ。滝が跡部の感情に鈍かったのなら、あれほど適切な言葉を選ぶはずはない。その事を跡部は少なからず不安に感じたが、滝以外が跡部の感情を読み取ったような節は見当たらなかった。一人にでも感づかれている事は不愉快だったが、全員が知っているよりは良かったかと考える。全員の前で断ると言った手前、今だ気持が揺らいでいるなどと跡部の矜持にかけても感づかれるわけにはいかなかった。
そう、自分の気持ちはもう決まっているのだ。
(なのに、何であんな…)
普段なら気にも留めないであろう滝の言葉が未だに引っ掛かる。
他のことに思考をずらそうとしてもうまくいかず、結局振り出しに戻っていく。一度決めたことは覆さない―――それが跡部のモットーと言っても良かった。それなのに未だに踏ん切りがつかないのは、どうしてなのだろうか。
(いや、踏ん切りがつかねえのは当たり前だな)
何せ断ろうと言う前に、先手を打たれてしまったのだ。
けれどふっきりたいという理由で「断らせてくれ」というのも何だか変な話だろう。というか、不必要にまたその話をぶり返して、さらに近づきにくくなるのはご免こうむりたかった。
さてどうするか、と跡部が重いため息をついたところで、授業開始のチャイムが鳴った。
喧騒に包まれていた教室が静寂に包まれ、教師が教室に入ってきて授業を始める。
と、窓の外に見慣れた巨体が居るのを見て、跡部は思わず目を見張った。
――――――樺地。
そう、高等部のグラウンドで立っているのは樺地崇弘、まさに彼だったのだ。
こんなところで何をしている、授業はどうした、と様々な疑問が跡部の脳に浮かぶも、当然声に出して問う事は出来ない。ただ授業など気にもせず、跡部はかじりつくように教室の窓からグラウンドを見ていた。
だが樺地が跡部に気づく様子は見受けられない。よく見てみると樺地は体操服を着て、高等部の体育教師と何事か話している。樺地が困ったように何事かを離すと、初老の男性教師は、それでも年の割に爽やかな笑みを浮かべて体育倉庫の方へと走って行った。
おそらく、体育の授業で使うものが中等部の倉庫に無かったのだろう。
中等部や高等部と言っても氷帝学園は一つの敷地に収まっているので、偶に中等部の物を高等部の教師が借りたり、またその逆もあったりと、色んな物の移動は頻繁に起こっている。樺地は体育教師に頼まれたに違いない。
(…お前、そういうの断れねえもんな。今でもわざわざ走って取ってきてくれる教師に申し訳なさでも感じてんだろ)
そこまで考えて、どうしてだか、口が緩むのを跡部は押さえられなかった。
久しぶりに見る姿。顔だとか雰囲気だとか、二日見ていないだけなのに何故だか十年も会っていないような気分になるのは何故なのか―――その理由を跡部は知らない。
知らなくてもいいような気がした。知らなくても、こんなに優しくて、幸せだ。
と、次の瞬間に事件は起きた。
グラウンドを横切って、樺地に向かう小さな影がある。どうやら女子のようだ。
樺地と対照的な白い肌が陽の光に反射する。腰ほどまである緩い巻き髪は上のピンクのリボンで一つに纏められている。元から華奢な体に見えたが、樺地と並ぶことでより一層小柄に見える。風が吹けば折れてしまいそうだ。
彼女は何事かを樺地に伝えに来たのか、笑いながら何かを話している。樺地の方は無表情だ。
普段からあまり表情を動かすことのない樺地は、よく無愛想だと言われる。もちろん跡部には、樺地は無愛想なのではなく感情が顔に出にくいだけだと知っているが、周りは不気味に思うようだ。
だがその女子は樺地のそんな顔を見ると、少し笑って顔を覗き込んだ。
――――と、跡部の思考はその場で停止した。
(…な、に)
彼女が樺地の顔を覗き込んだのは一瞬だった。パッと離れたことで顕わになる樺地の顔が、赤く染まっているのを跡部は見逃さなかった。照れていることすら分かりづらい顔ではあったが、近くに居る彼女は分かったらしい。そんな樺地をからかうように指をさして笑うと、また何事かを話して去って行った。樺地はいつもより和らいだ表情で彼女の背中を見つめている。
と、体育教師が戻ってきたらしく樺地はそちらに向きなおった。
そのうちに樺地が道具を持って去っていっても、跡部の顔はグラウンドから離れなかった。
―――というより、跡部の瞳は何も映していなかった。
彼女が樺地に近付いた瞬間、思わず叫びそうになった。
――――触るな触るな触るな、
そしてそんな感情が脳に浮かんだ事に、驚愕した。
(な、んで、あんなこと、)
カタ、という音がして、跡部は机を向いた。手が震えているらしい、反動で机を鳴らした。
片方の手で押さえるも両方震えて儘ならない。
樺地にそんな感情を抱けないと断言したのは自分だ、と跡部は心中で呟いた。
なのにこのドス黒い感情は一体何なのだろうか。
いや、その前に。
――――――『そんな感情』、って何だ
「…嘘だ」
その言葉は周りを振り向かせずにはいられないほど大きく響いた。
だが振り返った顔に応えることもなく、跡部は呆然と、プラスチックで出来た机を見ていた。
+ + +
どうやって帰ってきたのだろう、という事は考えなかった。
頭が爆発しそうなほどガンガンと音を立てている。
食欲がない、と家に居る料理人に断り、跡部は自室に立て篭もった。途中で召使が具合が悪いのかと問うてきたが、何でもないからしばらく一人にしてくれと頼めば何も言わず去って行った。
―――――まさか、本当に?
ぐるぐると回る思考を止められず、跡部はシルクベッドの中で目を閉じた。
眠ろうと思ったのではない。整理するためだ。だが、暗闇のなかは思考を吸いこまれそうで、余計に分からなくなる。
『まだいいよ、跡部』
『無理に答えを出さなくても』
『自分の気持ち、早く気付かないならね―――』
滝の台詞が回る。今ならばあの言葉の意味が分かる気がして、跡部は額に手をついた。
(まさか、そういうことか?)
決心が揺らいでた理由。
姿を見ただけで気持ちが和らいだ理由。
そして、あの感情の理由―――
その答えは、たった一つに帰結すると、もう跡部には分かっていた。
胸の中に浮かぶ、優しい瞳をする幼馴染。
おそらく、この気持ちが、
(恋、だとでも、)
まさか、という思いはまだ胸の中で燻っていた。友愛と恋愛を勘違いしていないかとも思った。最近しばらく見ていなかった―――といっても、2日だが―――ために、寂しさが変形したのではないかとも思った。
けれどあの事件が、何もかもを暴いたと跡部は悟っていた。
目を反らしたくても反らせない、あの時に溢れ出た感情は決して清らでない、黒い激情といっても良かった。
そんな想いを抱いているという事を今日初めて知ったことすら、むしろ不思議に思えるくらいだ。
(…いや、気づいてたんじゃねぇか?)
既に気付いていたのだ。本当は。
ただし、そう、きっと芽生えたのが早すぎて。
物心ついた時、とまでは言わないが、あまりに自然すぎて気付かなかったのかもしれないと跡部は思った。
ああ、どうしたらいいのだろう。
誰かに愛されることはあっても、愛することを今までしてこなかった跡部だ。
特に今は、すれ違いが起きている。
さてどうやってアプローチしてやろうかと考えて、意外にも自分が現在の状況を楽しんでいることに気づいた。
何せ愛するという喜びを感じるのは初めてなのだ。それに相手は、つい数日前に自分に告白してきた相手である。
その相手が「忘れてください」といったという事実も忘れ、跡部はベッドの中で怪しく笑んだ。
(首洗って待っててやがれ―――俺様にこんな想いを抱かせた事も、お前の言葉も、許さねえ)
跡部はとりあえず携帯を取り出して、闇にまばゆく光るディスプレイに目を細めながらメールを打ち始めた。
to be continued...
|あとがき|
あっ…
あれー!?(何)
もっとシリアスにするつもりだったんですって!本当に!えええええなんかごめんなさい!
跡部を一回自滅させてからこう…いい方向(?)に持ってくつもりだったんですよ!本当に!!
樺地とか全然出てなくてごめんなさい
それから文章力がry
あと黒樺地要素が出て無くてごめんなさい
次に出すんです…愛菜様本当に申し訳ありません…!
えー、一応1万hit記念なので、『限りなく透明に近く』とともにDLFにさせて頂きます!
無期限で!
ああああああとほかに待ってらっしゃる方々すみません…!!
そしてこの話はあと一話で完結です。
気長に待って下さるとうれしい…です!
はたしてハッピーエンドで終るのか終らないのか。
まあうちのサイトの傾向から行けば…ねえ←
おまたせして、本当に申し訳ありませんっ!!!!!
1万hit、ありがとうございましたあああああああああああっ!!!!!!!!!