昔は、コイツが居るだけで寝れたのに。

 隣でその匂いを嗅ぐだけで、安心して、ぐっすり寝れたのに。

 

 

 

 「・・・・寝れねえ」

 

 

 

 最近は、それが出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明かりもつけていない、真っ暗な部屋では自分の手すらよく見えない。

 跡部は上半身を起こすと、枕もとの窓にかかっているカーテンを少し開いた。

 開かれたところから差し込む月光で、次第に部屋の状態が見えてくる。

 

よく見ると、今日は満月だった。 ちょうど跡部の部屋の窓から見えやすい位置を陣取っている。

 

 その光で跡部のベッドが照らされると、跡部は隣で眠る大柄の男へと目を移した。

 

 ――――こっちは寝れねえってのに・・・・

 

 跡部は心中でごちると、月の光に照らされてよく見える寝顔を肘付いて眺めた。

 どうやら熟睡しているらしく、胸が呼吸に合わせて上下して、少し開かれた唇の間から安らかな寝息が聞こえてくる。

 

 こんな風にこの男――――樺地を家に呼び、泊らせ、同じベッドで眠るのは珍しいことではなく、むしろ樺地を泊らせる時は常の事であった。

 まるで子供のように友達と同じベッドで寝るなどと、およそ14と13になった青年がやることではないのだろうが、跡部にとってはそんな事は関係ない。

 子供の頃から、樺地が泊まる時だけ妙にぐっすり寝れると気付いていたから、いつでも跡部は樺地を傍に置いていた。

朝に目を覚ました時、近くに顔があって驚いたこともあるが、その次の瞬間には笑い合っていたものだ。

 

 

 けれど、いつからだっただろう。

 いつからこんな風に、ふと目を覚ましては、寝顔を見つめて、胸を逸らせた事だろう。

 

 

 「間抜けな顔で寝やがって・・・」

 

 

 理由は分かっているのだ。

 自分が、この男に対して邪な想いを持っているから。

 いつでも食べてしまえるように、機会を待っているからだ。

 

 だというのに、樺地は全く以て気付いていない。

 こんな風に自分を狙っている男が隣に居るなど。

 

 

 ――――いや、おそらく想像もしていないのだろう。

 

 

 跡部は溜息をついた。

 

 何十年という長い年月を、何もかもすべてをさらけ出して信頼し合った親友。

 その親友が、そんな想いを抱いているという事など。

 

 

 「・・・・俺だって、予想してなかったんだぜ、樺地」

 

 

 ――――まさかそんな想いを、他人に抱くことになろうとは。

 

 

 でも、それでも。

 

 

 「…逃がさねえからな」

 

 

 隣で眠る獲物が、いつか気付いて逃げだす前に。

 

 

 いつか自分の中の獣が、捕まえて――――

 

 

 

 

 「――――覚悟しろ」

 

 

 

 

 跡部はにやりと笑って、呼吸の洩れている樺地の唇に己のそれを重ねた。

 

 

 

 欲を持て余した狼は、眠れるまで獲物のにおいを嗅いで寝たと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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